春といえばパンまつりですね。シールを集めてお皿をもらうアレです。
そんなお祭りで,シール得点効率が良いものといえば食パン。食パンに塗るものといえば,そう,マーガリンです。調査によると実に4割の方が「自分がパンに塗るもの」としてマーガリンを回答にあげています[1]。
ですが,マーガリンで気になるのはトランス脂肪酸。
今回の記事では,マーガリンやファットスプレッド※1(この記事ではまとめて「マーガリン類」と呼びます)に含まれているトランス脂肪酸の量について紹介します。また,大手製パンメーカーのパンに含まれるトランス脂肪酸の量についても紹介します。
※1 ファットスプレッド:厳密にはJAS規格で細かく定められていますが,ここでは油脂含有率マーガリンより少ない(80%未満)のものと捉えていただければ結構です。家庭でマーガリンのように使われているネオソフト(雪印メグミルク)やコーンソフト(明治)などもファットスプレッドです。
この記事を読むと次のようなことがわかります。
- 今日では,多くのマーガリン類のトランス脂肪酸は以前と比べ削減されている
- パンについてもトランス脂肪酸削減が行われている例がある
ただし,この記事で触れる話題は,基本的にはトランス脂肪酸のみであることにご留意ください。
トランス脂肪酸は何が悪いのか
トランス脂肪酸は,LDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)を増やす働きに加えて,HDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)を減らす作用があると報告されています。
そのため,多量に摂取した場合には,狭心症や心筋梗塞といった冠動脈性心疾患などのリスクを高めるとされています[2]。
世界保健機関WHOはトランス脂肪酸の摂取量は摂取カロリーの1%未満にするよう勧告しています[3]。これは,1日の摂取カロリーを2,000kcalとすると約2.2gです。
マーガリンとトランス脂肪酸
マーガリン=高トランス脂肪酸?
マーガリンは植物油脂を主体とした原料を常温で固体化する処理をした製品です。
旧来的なマーガリンの製造過程では,この固体化のための水素添加と呼ばれる作業などで,多量のトランス脂肪酸が生成されていました。
トランス脂肪酸自体は肉や乳といった自然の食品にも含まれますが,水素添加が行われている商品のトランス脂肪酸量は特筆して大きく,また,製造方法の改良によって改善余地のあるものとされています。
そのため,マーガリン類は高トランス脂肪酸の代表格として認識されることとなってきました。
2006-2008年ごろのトランス脂肪酸含有量
食品 | 100gあたりのトランス脂肪酸量 サンプル平均 (最小 – 最大) |
---|---|
牛肉 #1 | 0.52g (0.012g – 1.4g) |
牛乳 | 0.089g (0.069g – 0.13g) |
バター | 1.9g (1.7g – 2.2g) |
マーガリン | 8.7g (0.36g – 13g) |
ファットスプレッド | 6.1g (0.99g – 10g) |
この表では,2008年ごろには,主な成分が水素添加の必要のない動物油脂であるバターと比べてマーガリン類の平均的なトランス脂肪酸の量は多いことがわかります。
マーガリン類のトランス脂肪酸は減少傾向
上記の表のとおり2008年ごろの報告ではで多量のトランス脂肪酸が含まれていたマーガリン類ですが,近年はトランス脂肪酸の含有量の平均値は減少しています。
トランス脂肪酸量(100gあたり)の変化
2007-2008年 サンプル平均(最小 – 最大) | 2014-2015年 サンプル平均(最小 – 最大) | |
---|---|---|
マーガリン | 8.7g (0.36g – 13g) | 0.99g (0.44g – 16g) |
ファットスプレッド | 6.1g (0.99g – 10g) | 0.69g (0.32g – 4.4g) |
バター | 1.9g (1.7g – 2.2g) | – 注1 |
注1 バターのトランス脂肪酸は天然成分に由来するものがほとんどであるため,2014-15年の調査対象とはされていません。
2008年の段階では平均してバターよりも多くのトランス脂肪酸を含んでいましたが,2015年には,バターよりも平均のトランス脂肪酸の量は少なくなっています。
(バターであってもパンに塗る場合約10gのトランス脂肪酸量は0.19g程度です。)
ただし,日本ではトランス脂肪酸低減はメーカーの自発的な取り組みとなっているため,2015年段階においても,上記表の最大値からわかるようにトランス脂肪酸が多く含まれている商品も一部にあったことは事実です。
2015年以降のまとまった報告は2022年3月現在ありませんが,熱心なメーカーは2015年以降も引き続きトランス脂肪酸に関する取り組みを続けています。
例えば,雪印メグミルク(代表商品 ネオソフト),明治(コーンソフト),J-オイルミルズ(ラーマ)は,2018年には家庭用マーガリン類について,トランス脂肪酸が多く含まれる部分水素添油脂の使用をやめたことを案内しています[7][8][9]。
メーカー名 商品名 | トランス脂肪酸量 |
---|---|
雪印メグミルク ネオソフト | 製品10gあたり0.05g |
明治 コーンソフト | 製品10gあたり0.1g |
J-オイルミルズ ラーマ バターの風味 | 製品10gあたり0.1g |
- 雪印メグミルク
トランス脂肪酸や飽和脂肪酸、部分水素添加油脂(PHOs)が気になる方へ - 明治
明治のトランス脂肪酸量の低減への取り組み - J-オイルミルズ
トランス脂肪酸への対応
ここまでをまとめると,
国内で販売されているマーガリン類のトランス脂肪酸量は平均的にはメーカーの努力により大きく減少してきました。
ただし,まとまったデータが存在する2015年の段階では少なくとも一部にはまだトランス脂肪酸量の多い商品があることもわかります。
したがって,トランス脂肪酸が気になる方はメーカーのWebページなどでトランス脂肪酸に関する取り組みなどを確認してから商品を購入することをおすすめします。
市販のパンなどのトランス脂肪酸
ここまで,市販のマーガリン類のトランス脂肪酸の含有量は改善されていることを説明しました。
では,市販のパンなどに含まれているトランス脂肪酸はどうなっているのでしょうか?
市販のパンの原料にはマーガリンが使われているものが多くあります。また,ショートニングなどマーガリンと同じくトランス脂肪酸が多く含まれていると認知されてきた原料も使用されています。
疑った見方をすると「いち原料であればそれほど注目を浴びないため,対策をしてないのでは?」と考えることもできるでしょう。
しかし,実際には製パンメーカーについてもトランス脂肪酸対策を行なっているようです。
大手の製パンメーカーもトランス脂肪酸低減に関心
- 山崎製パン「トランス脂肪酸等の低減化に関する取組みについて」
“弊社では、2005年からトランス脂肪酸の低減化に向け検討を行っており、現在ではパン類の原材料油脂中のトランス脂肪酸は1/5から1/20まで低減化が図られています” - フジパン「よくあるご質問」
“お客様がご心配されるものは可能な限り使用しない、または使用量を極力少なくするという基本方針のもと、原材料メーカー様にご協力をお願いし、トランス脂肪酸の低減化に努めております。” - 敷島製パン「安全・安心の基本」
“2006年(平成18年)2月より、パンや菓子に使用する油脂(マーガリン、ショートニング)を、トランス脂肪酸の含有量が少ないものに順次切り替えて参りました。”
実際に,ヤマザキの主要製品に含まれるトランス脂肪酸の量変化を確認してみましょう。
ヤマザキ商品のトランス脂肪酸量の変化
商品名 | 2015年 トランス脂肪酸量 | 2022年 トランス脂肪酸量 |
---|---|---|
ミニスナックゴールド (1個当たり) | 0.8g 参考:1個564kcal | 0.5g 参考:1個556kcal |
コッペパン(ジャム&マーガリン) (1個当たり) | 0.4g 参考:1個525kcal | 0g 参考:1個471kcal |
ランチパック(ピーナッツ) (1個当たり) | 0.3g 参考:1個180kcal | 0.3g 参考:1個180kcal |
まるごとソーセージ (1個当たり) | 0.4g 参考:1個437kcal | 0g 参考:1個396kcal |
ホワイトデニッシュショコラ (1個当たり) | 0.9g 参考:1個426kcal | 0.9g 参考:1個426kcal |
まるごとバナナ (1個当たり) | 0.7g 参考:1個447kcal | 0g 参考:1個442kcal |
ロイヤルブレッド(1枚当たり) ダブルソフト(1枚当たり) ふんわり食パン(1枚当たり) | 0g | 0g |
ただし,100gあたり0.3g未満の場合は0gと表記。
上の表を見ると,たしかにトランス脂肪酸の量が削減されている商品があります。
ただし,ホワイトデニッシュショコラのようにトランス脂肪酸が多い商品があることも確かです。このパンを3食食べると(実際にはそんなことはないと思いますが…),0.9×3=2.7gとなり,WHOの勧告している量を超えてしまう可能性があります。
では,市販のパンに含まれるトランス脂肪酸の量を知るにはどうしたら良いのでしょう?
Webページでトランス脂肪酸の量を公開している場合も(例:山崎製パン)
大手コンビニのパンなどでは,パッケージにトランス脂肪酸の量が表示されているものもありますね。
しかしながら,スーパーなどで販売されている多くの製パンメーカーの商品パッケージには,トランス脂肪酸の量は表示されていないのが現状です。
そのような場合でも,メーカーのホームページなどで主要商品のトランス脂肪酸の量を公表している場合があります。
例えば,ヤマザキは次のとおり主要製品のトランス脂肪酸量を公表しています。
ただし,「食品100gあたりトランス脂肪酸量が0.3g未満である場合0gと表示できる」という消費者庁の指針[12]に従い,ヤマザキも同条件を満たす場合は0gと表示しているようです。(個人的には消費者の選択の参考になる情報は,ガイドラインを満たすだけでなく,できる限り正確な情報を出してほしいと思いますが。。)
フジパンや敷島製パンもヤマザキと同様にWebページの商品情報ページなどでトランス脂肪酸の量を公表しています。
市販のパンのトランス脂肪酸が気になる方は,こういったメーカーのWebページなどを確認してみると良いでしょう。
本記事の限界:食事はバランス良くとろう
本記事ではトランス脂肪酸についてのみ触れました。
実際にはトランス脂肪酸以外にも,飽和脂肪酸(こちらも種類によっては多量に摂取すると心筋梗塞などの冠動脈性心疾患のリスクを高めるとされています)の摂取量や油脂以外の栄養バランスなども気をつける必要があるでしょう。
飽和脂肪酸の含有量についてもマーガリン・製パンメーカーなどがWebページで公表している例は多数あり,自分である程度気をつけることは可能です。
そのようなことも考慮しながら,楽しく,健康にパン(まつり)ライフを楽しんでいきましょう!
出典
[1]マイボイスコム株式会社, パンに関する調査(第6回), https://myel.myvoice.jp/products/detail.php?product_id=28203 (2022.3.19閲覧)
[2]農林水産省, トランス脂肪酸の摂取と健康への影響, https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_fat/t_eikyou/trans_eikyou.html (2022.3.19閲覧)
[3]WHO, Diet, nutrition and the prevention of chronic diseases Report of a joint WHO/FAO expert consultation (WHO Technical Report Series 916)(2003), https://apps.who.int/nutrition/publications/obesity/WHO_TRS_916/en/
[4]食品安全委員会, 食品に含まれるトランス脂肪酸の評価基礎資料調査報告書 (2007), https://www.fsc.go.jp/fsciis/survey/show/cho20070330002
[5]農林水産省, 平成18・19年度調査結果(穀類加工品、豆類加工品、肉類、乳類、油脂類、菓子類、調味料・香辛料類), https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_fat/t_kihon/content/h1819_transfat.html (2022.3.19閲覧)
[6]農林水産省, 平成26・27年度調査結果(穀類加工品、乳類、油脂類、菓子類、嗜好飲料類、調味料・香辛料類、調理加工食品), https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_fat/t_kihon/content/h2627_transfat.html (2022.3.19閲覧)
[7]雪印メグミルク, トランス脂肪酸Q&A, https://www.neosoft-brand.com/gimon/ (2022.3.19閲覧)
[8]明治, 明治のトランス脂肪酸量の低減への取り組み, https://www.neosoft-brand.com/gimon/ (2022.3.19閲覧)
[9]J-オイルミルズ, トランス脂肪酸への対応, https://www.j-oil.com/deliciousness_and_health/trans_fat/ (2022.3.19閲覧)
[10]雪印メグミルク, 【別表】雪印メグミルク油脂商品 脂肪酸およびコレステロールの含有量、部分水素添加油脂の使用有無 一覧表, https://www.neosoft-brand.com/gimon/10_graph.html (2022.3.20閲覧)
[11]明治, 明治の取り組み, https://www.meiji.co.jp/dairies/transfat/efforts.html (2022.3.20閲覧)
[12]消費者庁,トランス脂肪酸の情報開示に関する指針について(2011.2.21), https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/health_promotion/trans_fatty_acid/pdf/syokuhin505.pdf